PART8 〜消えたサングラス〜

 おっちゃんはおもむろに「'95版 地球の歩き方」を出してきて、
我々に見せた。ホテル紹介のページだ。何やら手書きでバツが
いっぱいついている。
「よくホテル紹介に星がついてるだろう。三ツ星とか、四ツ星とか。
このバツはその逆だ。悪いホテルにバツがついている。」
何のこっちゃ。
「君らの泊っているホテル、KORAYはほら、5バツだ。」
ボラれたことが頭をよぎる。
「あそこの飯は腐っているぞ。料金を10倍取られることもある。
今からでも遅くはない、ホテルを換えなさい。」
なんだ、結局このおっさんも客引きか。
「でももう料金を払っちゃたから...」
「ならばしょうがない,飯はよそで食え。これこれのホテルは
うまくて安いぞ。私はケレムというトラベルエージェンシーの
者だ。ホテルの営業とはなんの関係もない。ただ心の美しい
日本人がだまされるなががまんならないのだ......」

 それからあとは、彼がどれだけ日本人が好きか、自分が正直な
商売をしているか、旅行者に親切にしているか、という話に
終始して、話し半分に聞きつつもうんざりしてきた時、別の
おっちゃんが入ってきた。ケレムの友達だそうで、ビールを
おごってくれ、英語のできない彼をケレムが通訳しながら話
に花が咲いた。

 さて、さあ帰ろうという時、サングラスがないことに気付く。
そうだ、中座したさっきのおっちゃんに貸して、そのまま
持っていってしまったのだ。
「大丈夫、私が取り戻してこよう。さっき紹介したホテルの
レストランに九時に持っていく。」
 強引にそのレストランに行く約束をさせられてしまった。
しかしあのサングラスは妹に借りたものだ。取り戻さないわけには
行かない。別のホテルで晩飯を食べるって言ったらKORAYの
にいちゃん怒るかな。やたら晩飯のガーデンパーティーを
勧めてたもんな。
 テレテレ歩いているとKORAYの兄ちゃんがやってきて、車で
石灰棚に連れてってくれるという。夕方の景色は格別だそうだ。
言われるままに車に乗る。

幻想的な夕焼けの中、パムッカレの石灰棚を歩いて降りる。

 先程までは灼熱地獄だった石灰棚も、日が傾くと心地よく、
夕焼けに映えてとても美しい。我々は、今度こそ歩いて降りる
ことにして、兄ちゃんにちゃんと道を聞いておく。どうやら
道づたいに行くのではなく、石灰棚を直接降りて行くらしい。
確かに夕日の中を降りていくのは何とも神秘的で美しかったが、
その辺は外灯が全くなく、あっという間に日が暮れるので、
あまりのんびりはしていられなかった。

 夕食前、案の定KORAYのにいちゃんにつかまる。別で食べる、
というと兄ちゃんゲキ怒り。

「モーターバイクの男が何か言ったのか!?」
どうやらケレムとはかなり仲が悪いようだ。強引に誘ってきたが
仏の機転で何とか振り払う。
 ケレムの勧めたレストランへ行くとなんと250bin(500円)という。
KORAYと変わらないではないか。しかしケレムはサングラスをここに
もってくると言っていたし。何だかサングラスを人質に取られた
ような気分だ。しかも、料理はフルコースのはずなのにスープや
サラダが来ない。が、疲れきっていた我々は文句を言う元気もない。
皆が帰っていった後、Mは一人で残ってケレムを待つ。しかし
10:00になっても来ない。その時ケレムから店に入り電話が、
12:00に自分の事務所に取りに来い、という。何だか返ってきそうに
ないな、と思いながらすごすごと引き返す。

 部屋に帰ると皆ぐったりしていた。特に桃がしんどそう。どうやら
軽い日射病のようだ。Mはむしろ精神的にまいってしまった。
出発をどうしようかという話になったが、皆あまり思考回路が働かない。
とりあえず明日出発しよう。こんなボッタクリのホテルは気分が悪い。
それにここはあまり人間も良くない。ならばなんとしても今日中に
サングラスを取り戻さなければ。
 11:30。仕方がないのでケレムの事務所までいく。数百メートルの
道とは言え、こんな夜遅く出歩くのはちょっと怖い。事務所にいくと、
案の定というか、ケレムはいなかった。そこの少年と少し話していたが、
12:00になっても現れない。じゃあ、ケレムが帰ってきたらサングラスを
ホテルに持っていって上げるよ、と少年が言ってくれた。どうでも
いいが、このへんの、観光関係の仕事をしている子供達は皆英語が
ペラペラだ。この少年も10才ちょっと位なのだが、彼よりうまく
英語の話せる日本の高校生はどの位いるのだろうか。いわんや大学生をや。
  彼に礼を言ってホテルに向う。と、偶然ケレムに会う。
  「いま、サングラスを捜しに隣街まで行ってきた。
サングラスのためだけにだ。おれの友達はそこにいた。いや、実はやつは
友達ではないんだ。あの野郎は酔っ払ってどこかにサングラスを置いて
きたらしい。今は埒が開かないので明日もう一度彼の家に行く。サングラスの
ためだけに行く。明日、9:00に事務所に来い。」
  自分勝手な物言いにあきれるばかり。もうサングラスは戻ってこないの
だろうか。
  皆に話すと、とりあえず出発は昼過ぎにするか、それか一日延ばそう、
ということになった。やむを得まい。

  夜。死ぬほど蚊に悩まされる。

 

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