PART8 〜消えたサングラス〜
おっちゃんはおもむろに「'95版 地球の歩き方」を出してきて、 それからあとは、彼がどれだけ日本人が好きか、自分が正直な
商売をしているか、旅行者に親切にしているか、という話に
終始して、話し半分に聞きつつもうんざりしてきた時、別の
おっちゃんが入ってきた。ケレムの友達だそうで、ビールを
おごってくれ、英語のできない彼をケレムが通訳しながら話
に花が咲いた。
さて、さあ帰ろうという時、サングラスがないことに気付く。
そうだ、中座したさっきのおっちゃんに貸して、そのまま
持っていってしまったのだ。
「大丈夫、私が取り戻してこよう。さっき紹介したホテルの
レストランに九時に持っていく。」
強引にそのレストランに行く約束をさせられてしまった。
しかしあのサングラスは妹に借りたものだ。取り戻さないわけには
行かない。別のホテルで晩飯を食べるって言ったらKORAYの
にいちゃん怒るかな。やたら晩飯のガーデンパーティーを
勧めてたもんな。
テレテレ歩いているとKORAYの兄ちゃんがやってきて、車で
石灰棚に連れてってくれるという。夕方の景色は格別だそうだ。
言われるままに車に乗る。
幻想的な夕焼けの中、パムッカレの石灰棚を歩いて降りる。 |
先程までは灼熱地獄だった石灰棚も、日が傾くと心地よく、
夕焼けに映えてとても美しい。我々は、今度こそ歩いて降りる
ことにして、兄ちゃんにちゃんと道を聞いておく。どうやら
道づたいに行くのではなく、石灰棚を直接降りて行くらしい。
確かに夕日の中を降りていくのは何とも神秘的で美しかったが、
その辺は外灯が全くなく、あっという間に日が暮れるので、
あまりのんびりはしていられなかった。
夕食前、案の定KORAYのにいちゃんにつかまる。別で食べる、
というと兄ちゃんゲキ怒り。
「モーターバイクの男が何か言ったのか!?」
どうやらケレムとはかなり仲が悪いようだ。強引に誘ってきたが
仏の機転で何とか振り払う。
ケレムの勧めたレストランへ行くとなんと250bin(500円)という。
KORAYと変わらないではないか。しかしケレムはサングラスをここに
もってくると言っていたし。何だかサングラスを人質に取られた
ような気分だ。しかも、料理はフルコースのはずなのにスープや
サラダが来ない。が、疲れきっていた我々は文句を言う元気もない。
皆が帰っていった後、Mは一人で残ってケレムを待つ。しかし
10:00になっても来ない。その時ケレムから店に入り電話が、
12:00に自分の事務所に取りに来い、という。何だか返ってきそうに
ないな、と思いながらすごすごと引き返す。
部屋に帰ると皆ぐったりしていた。特に桃がしんどそう。どうやら
軽い日射病のようだ。Mはむしろ精神的にまいってしまった。
出発をどうしようかという話になったが、皆あまり思考回路が働かない。
とりあえず明日出発しよう。こんなボッタクリのホテルは気分が悪い。
それにここはあまり人間も良くない。ならばなんとしても今日中に
サングラスを取り戻さなければ。
11:30。仕方がないのでケレムの事務所までいく。数百メートルの
道とは言え、こんな夜遅く出歩くのはちょっと怖い。事務所にいくと、
案の定というか、ケレムはいなかった。そこの少年と少し話していたが、
12:00になっても現れない。じゃあ、ケレムが帰ってきたらサングラスを
ホテルに持っていって上げるよ、と少年が言ってくれた。どうでも
いいが、このへんの、観光関係の仕事をしている子供達は皆英語が
ペラペラだ。この少年も10才ちょっと位なのだが、彼よりうまく
英語の話せる日本の高校生はどの位いるのだろうか。いわんや大学生をや。
彼に礼を言ってホテルに向う。と、偶然ケレムに会う。
「いま、サングラスを捜しに隣街まで行ってきた。
サングラスのためだけにだ。おれの友達はそこにいた。いや、実はやつは
友達ではないんだ。あの野郎は酔っ払ってどこかにサングラスを置いて
きたらしい。今は埒が開かないので明日もう一度彼の家に行く。サングラスの
ためだけに行く。明日、9:00に事務所に来い。」
自分勝手な物言いにあきれるばかり。もうサングラスは戻ってこないの
だろうか。
皆に話すと、とりあえず出発は昼過ぎにするか、それか一日延ばそう、
ということになった。やむを得まい。
夜。死ぬほど蚊に悩まされる。