3日目 −ロンドン観光−
時差ボケの影響で早朝4:30くらいに起きる。小説を読みながら時間をつぶしていると7:30くらいにHさんがおきてきた。今日の予定は丸一日ロンドン見物。ロンドンへはコーチ(長距離バス)で行く。基本的にイギリスでは鉄道料金が高く、安く旅行しようと思ったらコーチに限る。また往復でチケットを買うと格安になり、たとえばコベントリーからロンドンまで片道11ポンド(約2200円)のところ、オープンリターン(往復券)だと15ポンドとなる。当日帰りだともっと安い。ただ、鉄道よりも本数が少なく、移動時間も1.5倍くらいかかる。
コベントリーのシティセンターから9:00のコーチに乗る。ロンドンまでは2時間程度だ。11:30にバッキンガム宮殿で衛兵の交代式があり、ぜひそれには間に合いたい。コベントリーからしばらくはずっと田舎道を行く。羊や牛の放牧が目を引く。季節がら菜の花畑が満開で、一面に黄色い絨毯が広がる中を走り抜けて行く。バスステーションで買ったハンバーガーとコーヒーを始末してしまうと、いつのまにか寝てしまった
目がさめるともうロンドンの近郊のようで、いくらかおおきな建物が並んでいる。しかし町並みは東京とはぜんぜん違い、古い格式を重んじるヨーロッパ的な雰囲気を漂わせている。
どうも道が込んでいるようで、ベーカーストリート付近からあまり進まなくなってしまった。到着予定は11:00だったがそれには到底間に合わない。何とか11:30の衛兵交代には間に合いたいのだが。
有名なバッキンガム宮殿の衛兵交代式。
11:20ごろ、ロンドンヴィクトリア到着。ほんとはツーリストインフォーメーションで情報を集めてからバッキンガムに向かいたかったがちょっと時間がない。ヴィクトリアからバッキンガムからは歩いて10数分だ。せかせか早足で歩いていき、何とか間に合ったようだが…そこにはものすごい人!バッキンガム宮殿の中庭で交替式は行われ、観客は周りからそれを見るのだが、塀の回りや少し小高くなった付近はあふればかりの人がいる。日本語もちらほら聞こえてくる。格式高い交代式も今は単なる見世物なのか。背伸びしながらみていると、門のところで待機した、退出するマーチングバンドの先頭が、鼻の下に小太鼓のスティックを、ユーモラスを際立たせる真剣な顔つきで付きつけている。やがて音楽とともに数個の隊列を組んでゲートをぬけて行き、カメラのシャッターの音の中と声援の中、ポーカーフェースをまったく崩さずセントジェームスパークの方向へ去っていった。散開した観客の後に残ったのは片付けをしている新米の衛兵と夢の跡。
さて、バッキンガム宮殿の周りをしばらく歩いたあと、昼飯はまたマクドナルドでビックマックミール。やっぱりあまりなじみのない名前の店に入るにはちょっとためらいがある。その後、ヴィクトリアステーションに行く。明日、幼いころを過ごしたウッドマンスタンの町を訪れようと思っているのだが、観光地でもない小さな駅は、日本から持参した「トーマスクック」時刻表には載っていない。駅のインフォーメーションに行くと時刻表の冊子がいっぱいある。イギリスの時刻表は日本のようにすべての路線が載っているわけではなく、各路線ごとに小さな冊子になっている。つまり中央線、埼京線ごとの時刻表があるのだ。鉄道が敷かれる前に発達したロンドンには「東京駅」のようなターミナル駅はなく、「ロンドンブリッジ駅」や「ウォータールー駅」をはじめ11の駅が中心をちょっと外れたところに環状に位置し、各方面の出発駅となっている。そしてその駅からは出発しない路線の時刻表は置いていないのだ。これにはちょっとあせったが、南方面への路線の多くが集結しているヴィクトリア駅にはトッテナムコーナー方面、つまりウッドマンスタンへ向かう路線があった。
ミュージカル、演劇などロンドンの
エンタテインメントを紹介する
ロンドンシアターガイド
旅行の上で時刻表は非常に重要なので、関係ない路線まですべてかき集めた後、ヴィクトリアのロンドン最大のツーリストインフォーメーションに向かう。明後日の土曜日、Hさんと約束していたミュージカルのチケットを取るためだ。おいてあった一枚の情報紙を見ていると、レ・ミゼラブルやミス・サイゴンなどのメジャーどころからよくわからんマイナーなものまで様々ある。さすがヨーロッパのエンターテインメントの中心地ロンドン。ここで、海外でショーを見るときの注意点。なるべくストーリーのわかっているもの、もしくは簡単そうなものを選ぶべし。英語で理解するのはものすごく集中力が必要で、旅疲れの中、ともすれば寝てしまう可能性もある。まったくストーリーを知らないと途中ではぐれたら最後、もう二度と追いつけなくなってしまうかもしれない。そこで、以前ビデオで見たことのある「アマデウス」を選ぶ。
ツーリストインフォーメーションの担当はどこでも親切だがもちろんここも例外でなく、シアターの席をみせながら、このあたりがいくら、このあたりがいくらとゆっくり丁寧に説明してくれた。20ポンド(約4000円)からいろんな席があったが、Hさんが以前行ったときあまりいい席でないのを嘆いていたので最高額の席にした。話を聞いているときは英語ということもあって舞い上がっていたのだが、よく考えたら41ポンド(約8200円)の出費は痛い。ドルの場合は円に換算するには約100倍ということでイメージしやすいのだが、ポンドはファクター2がつくため、どうも実感が沸かなくなってしまうのだ。たださすがに41ポンドの席、特等席中の特等席だということに気づくのは約24時間後。ミュージカルといっしょにロンドンのバスツアーを予約した。いってみれば鳩バスのようなものでまあおのぼりさんが使うものなんだけど、ロンドンを回るのにちょうどいいし、なにより4コースを10分置きごとにぐるぐるバスが周回しており、しかも24時間以内何度も乗り降りできる。もちろん使うバスはオープンのダブルデッカーだ。
観光都市でもあるロンドンのバスツアーは充実している。一日
乗り放題で、いくつかある路線を駆使して市内を巡ることが出来る。
ヴィクトリアの一番そばの停留所からのる。こういったバスツアーは数社あるようで、いずれも数コースを乗り降り自由という体制を取っている。二階の席に座り、イアホンを差し込むと日本語の解説も聞くことができる。
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ホースガード |
まずは超高級住宅街のケンジントン付近を抜ける。芸能人や政府要人の住む町並みは他の区画とはやはり雰囲気が違う。ハイドパークの脇を抜けると不思議な存在のマーブルアーチが見える。オックスフォードストリート、大使館の集うグロツキースクエア、世界的に有名な美容師ミッキークラークスの店を通りすぎ、ピカデリ−サーカスを抜けてトラファガー広場に出たところでバスを降りた。ここはナポレオン率いるフランス・スペイン連合艦隊を打ち破ったネルソン監督をたたえる塔がたっている。そこからバッキンガムの縮小版のようなゲートなるホースガーズを見学し、再びバスに乗る。ウェストミンスター寺院を抜けると有名なビッグベンの足元に国会議事堂がある。このペアの眺めはとてもイギリス的で異国情緒たっぷりだ。高等裁判所を抜け、ヨーロッパ、そして世界の経済を引っ張るシティを通り、キャノンストリートをぬけると遠くに大火記念塔を見る。そしてロンドンブリッジを渡りながらタワーブリッジを眺める。ロンドンブリッジはテムズ川に最初にかかった橋ではあるが見た目はどうということはない。建築の美しさからタワーブリッジをロンドンブリッジと誤認している人も多いそうだ。テムズ川に停泊している退役戦艦ベルファストは今ではレストランになっている。そうしてヴィクトリアにもどり、ぐるりロンドン周回ツアーはここで終わり。駆け足ではあったもののなかなか充実していた。じっくり見て回るのには物足りないかもしれないが、Mのようにとりあえずあちこちを写真に収めたいという旅行者にはお勧めです。
有名な大時計、ビッグベンと、
その足元にある国会議事堂。
晩飯はHさんは予定があるということなので一人で食べる。せっかくだからロンドンのパブに入りたいが、やはり物怖じしてしまう。結局バスステーションのすぐそばのFRIARS INNという、どちらかといえばカフェのようなところに入り、ハーフパイントのエールとトマトスープ、マッシュルームアンドビーフパイを注文する。ところで、Mは知る人ぞしるトマトスープフェチであり、トマトスープにはかなりうるさい。エールとパイはうまかったがトマトスープはいまいち。甘味が多く、すっぱいほうが好きなMには口に合わない。それにコクがまったくなく、暖かいトマトジュースでしかない。やはりトマトスープは「オオカミの桃」というトマトジュースをベースに作ったやつが一番うまい。最近見ないけどまだ売ってるのかな。ちなみに「トマト」を英語で言うとき「トマト」といっても通じず、「トゥメイトゥ」といわないと理解してくれないのだが、日本人にとってこれは結構気恥ずかしい。8:30のコーチにのり、また2時間かけてコベントリーへ行く。シティーセンターから更にHさんの家までバスに乗り、付いたのは11:00近くだった。予定通りだがHさん、ちょっと心配してるかな、と思ったらまだ帰ってきていなかった。5月のはじめでこちらの仕事を終え、日本に戻るHさんに、勤務していた会社の人がleaving partyを開いてくれている。12:00近くになって、べろんべろんに酔っ払って帰ってきた。白いシャツのおなかに赤いワインがこぼれており、指摘すると、「あややー」だって。日本人一人で異国の会社に放り込まれ、いろいろ苦労も多かっただろうが、最後はすっかりこっちの生活が好きになり、名残惜しいらしく「しゃみしいなあ」と連発していた。