Date: Thu, 13 Mar 1997 21:35:18 -0500
From: Miyachi Takahiko miyachi@tokyo1.phy.bnl.gov
Subject: From N.Y. V --- An Ordinary Day
*みなさんこんにちは。Mです。 *何だか東海村が大変なことになってるようですが、木原などは大丈夫でしょうか。 *ここのところ数日は天気が良く、気持ちのいい日が続いています。今回は僕の平均的なウィークデーについて紹介します。
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Mの今までのメールを見ると、ジャズやら映画やらと遊びの話ばかりなので、このメールを読んでいる人のなかには、Mはニューヨークに遊びに行ってると思ってる人がいるかも知れませんが、実はその通りです。ただ、一応みなさまの血税で来ているので、たまには仕事なんかしちゃったりしています。 Mの滞在しているのは、マンハッタンから7、80マイル(1マイル=1.6km)東のロングアイランドと呼ばれる半島上、車でおよそ一時間半くらいのところにある、ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory, BNL)というところです。ここは総合研究所で、一番ハバをきかせているのは物理ですが、そのほかにも、化学や医学、生物学などの基礎研究が行われています。日本でいったら埼玉県の理化学研究所の様なところです。我々が所属する物理部門はノーベル賞を3つ送りだし、AGS加速器と共に70年代後半から80年代にかけてアメリカの、そして世界の原子核物理の黄金期に牽引車的な役割をはたして来た、伝統ある研究所ですが、ホワイトハウスのDepartment of Energy(DOE)の予算削減にともない、大型の実験を除いては縮小の方向に向かっていて、中高エネルギー物理学の中心は、Japan HadronProject(JHP)の実現に伴って、いよいよサイエンスバブル状態の日本に推移して行くでしょう。 と、物理の話をしても誰も聞く耳をもちゃしないだろうから、研究所の他の横顔を見てみましょう。上に述べたとおり、マンハッタンから100数十キロのところにあるので、すごい田舎です。まわりは森ばかりで何もありません。学生の間で「サティアン」と呼ばれている筑波の高エネルギー研究所(KEK)でも、30分も歩けば最寄りのコンビニにたどり着きます。去年来てすぐ、時差ボケ解消にでもと、一番近くのセブンイレブンまで歩こうと思い、「クレイジー」という意見を振り切って歩きだしたのですが、まず研究所を出るのに一時間かかり、ゲートを出て左を向くとビシューッと一本の道が地平線の靄のなかに霞んでいましたが、その視界のなかにはセブンイレブンは微塵もありませんでした。パーパパパラッパッパーと、ラッキーストライクのCMの音楽が頭をよぎった瞬間、踵を返しました。 まあ、そのくらい田舎にあるので土地はあり余ってます。研究所の敷地はとても広く、建物は、さすがに実験エリアは巨大な建物が並びますが、他はほとんどが一階か二階建てです。木や芝生がいっぱいあり、人間よりも鹿やリスのほうが多く、環境はいいのですが、宿舎やオフィス、実験エリアなどの間の移動が一苦労です。 朝。こっちにきてもう二週間ですが、まだ時差ぼけが少し残ってるのか、だいたい7:00くらいに目がさめます。いつもはもうひと寝いりするのですが、今日は洗濯をしようと思っていたのでむくむく起き出します。滞在している宿舎は短期滞在者用の個室で、部屋がひろく、落ち着いた作りなので結構気に入ってます。また、この宿舎は二日にいっぺん、シーツを交換してくれます。KEKでは週に一度ですが、Mはスーパー寝ぞう悪ぞうこぞうで、ほっとくとシーツやら毛布やらかけブトンやらがぐちゃぐちゃになり、最後のほうは運動会の大玉転がしの大玉のような巨大な塊になって、もうどうやって寝ていいのかわからなくなってしまうので、このサービスは非常にありがたい。 洗濯は、ランドリーがちょっと遠いので車で行かなければなりません。しかし洗濯物を貯めるのはいやなので結構こまめにやってるかな。洗濯物を突っ込んで、カフェに朝食を食べに行きます。朝はあまりメニューがありませんが、果物がいっぱいあるのが嬉しい。グリルの朝の当番は、すらりと背の高い、三角まゆげの黒人のおねえさん。黒い肌に白衣が映えてかっこいい。フレンチトーストとベーコン、それに卵をサニーサイドアップ(目玉焼き)でたのみ、お湯以上の味がしないアメリカンコーヒーを注ぎます。レジで、"Have a nice day" と言われたら、" You, too" と返すのがスマートです。 8:30くらいにオフィスに入ります。ここでメールを読んだり、急ぎの用には返答したり、事務的な手続きを終わらせて、9:00には仕事の準備が出来ています。しかし、他の人は朝遅く、9:30ごろにきて、結局仕事始めは10:00前後になってしまいます。全てに置いていい加減なMですが、こと時間に関してはシビアで、人を待たせるのは全然構わないんだけど、待たされるのは大嫌いなのでいつもイライラします。日によってはミーティングをして、その後仕事にかかります。Mは、コンピュータの前に座ってカタカタやるよりも、オシロスコープを持って現場で動きまわるほうが好きなので、まあ実験準備というのはそんなに嫌いじゃない。特に、去年のこの時期の実験以降、ほとんどずっと解析でコンピューターワークだったので、今回の実験は結構張り切ってます。手は抜いてるけどね。矛盾してるって?張り切って手を抜いてるんだよ。
昼飯。だいたい日本人グループだけで行きます。朝と同じカフェですが、昼は利用者もぐっと増えてメニューも多くなります。サラダバーは必ずとろう。ちょっとばかしの金をケチって保険に入って来なかったので、意地でも病気になるわけにはいきません。アメリカの医療費はむちゃくちゃ高くて、盲腸にでもかかったら日本に帰って治療したほうが安くつくという話。ここんとこ2、3年、風邪らしい風邪をひいてないので、一気にでかいのがやって来るかも。あとは、サンドイッチやハンバーガー、パスタなど好きなものを選びます。ダイエット中のはずのMですが、今日もうまそうなピザに手が延びてしまいました。それと忘れてはならないのがりんご。ニューヨーク州は、別名ビッグアップルといい、りんごの名産地です。カフェにも数種類のりんごがあり、デザートには持ってこいで、カフェを出ながらかぶりつくのが正しいおのぼりさんの姿です。 午後も午前中と同じように仕事をして、だいたい6:00か、7:00くらいに終えます。実験準備というのは24時間突貫工事というのが一般的ですが、実験開始の日程が当初の予定より延びたので、かなりのんびりしていてちょっと拍子抜けではあります。 晩飯。週に二回くらいは外に食べに行きますが、後は自炊です。長期滞在者は研究所内のアパートメントと呼ばれるところに滞在していますが、ここは大きな台所があり、自炊は楽なので日本人グループでここに集まって料理します。ただ、みんなやたら料理にこだわりがあって、わけのわからん調味料がガーっと棚に並んでたり、とても高い肉を買ってきたり。Mは晩飯はマクドナルドでもいいし、だいたい微妙な味なんてわからないのでもっと遊びや買いものに金を使いたいのですが、まあ下っ端なので仕方がありません。今日の料理は鳥肉のワイン蒸し。 9:00頃にオフィスにもどってもう一仕事します。このときはみんなだいたい個人の仕事をするのですが、Mは去年の実験の解析の残りをやったり、後はこのメールを書いたりとか。これが一番大きな仕事だ。時差は14時間なので(前、誰かに13時間って言っちゃったけど)、だいたいこのとき日本は朝の11:00くらいです。日本時間から二時間引いてAM、PMひっくり返せばこっちの時間になる。だからそちらにメールが行くのは、この時間に出せばお昼前後になると思います。 10:00か11:00ごろに宿舎に帰ります。この辺は空気がきれいで(放射線濃度は高いだろうけど)、高い建物がないので星が非常にきれいですが、星と言えばカシオペアとオリオン座と巨人の星ぐらいしか知らないMには猫にこんばんはです。京大の山本さんが、北斗七星の横に死兆星が見えたと言って大騒ぎになりましたが、もう眠いのでどうでもいい。 宿舎に帰ってシャワーを浴び、音楽を聞きながらしばらくぼーっとして、後は本を読んだり、ミニテトリンをやったりして1:00くらいにいつのまにか寝ています。→ふりだしにもどる。
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*まあ、ウィークデーはこんな感じでパワーをため、土、日に一気に放出するというのがわたしの一週間です。 テュラテュラテュラテュラテュラテュララーってな感じでまた来週! ばいびー!
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