第2日(9月8日)

 朝は6:30起き。目覚ましのなる前に目がさめてしまった。

 ロンドンWaterloo駅にてパリ行きのユーロスターのチケットを買う。ユーロスターは以前、
ブリュッセルに行ったときに一度使ったことがある。10:23分発の、次の汽車の席が取れた。
ニ等車、禁煙席を選んでもらい、「26歳以下ですか?」「いえいえこないだ30歳になりました」と
答えいたいのをこらえた。しかし片道105ポンド(19000円)は高い。

 程なく列車はパリ北駅へ動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司会者 「それでは突然ですがここで、ロンドンの得点を見てみましょー!
審査員のみなさん、得点をいっせいに、どうぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

ドゥルルルルルルルルルル…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「8点8点7点7点7点10点9点5点7点7点 合計はぁ…」

 

 

 

ドドン。

 

「75てーん!」

 

司会者 「いやあ、のっけからいきなり低い得点となってしまいました。ろくに観光など
していませんがこの点数の低さはなんでしょう。ちょっと聞いてみましょうか。5点という
とんでもない点数をつけたマーガレットサッチャーさん、どうでしょうか」

サッチャー 「ええ、厳しい得点だということはわかっております。しかしやはり宿泊施設の
ひどさには目を見張るものがあります。一部のB&Bだけを見てすべてを語るのは問題がある
かも知れませんが、ロンドンのようにホテルの乱立するところではそれほど他と差があるとは
思えません。47ポンドでシャワートイレ共有。しかもあの狭さ。トイレは必ずしも清潔ではなく、
ピーが流されずに一人たたずんでいるのを見かけたのも一度やニ度ではありません。
 しかし都市の魅力はあるはずです。この結果を真摯に受け止め、宿泊施設の充実と低価格
化を実現してほしい。痛みのないところに改革はないのです。」

司会者 「ううん。非常に厳しいオコトバ。でも確かにロンドンのB&Bの事情はひどいですね。
今は人気があってもやがて観光客は離れてしまうかも知れませんね。やはりイギリスの
魅力は田舎ということでしょうか。それではまたライシュー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


PARIS

‐フランス‐
通貨/1F(フラン)=17円
公用語/フランス語

14:17、パリ北駅、ParisNordに到着した。時計上の乗車時間は4時間弱になるが、ロンドンとパリには
一時間の時差があるので実際には3時間程度となる。ヨーロッパ各国の時刻は、いわゆる
西ヨーロッパ諸国はパリと同じでロンドンより一時間早く、唯一ポルトガルのみがロンドンと同じ、と
あまり経度とは関係なく定まっている。
 パリ北駅はロンドン‐パリを結ぶユーロスター、ベルギー、オランダ方面のThalys、フランス各地へ
向かうTGVなどが集まるターミナル駅で、各特急が一同にそろい、悠然と発車時刻を待つ姿は壮観だ。

 しかし酔いしれてばかりもいられない。この時間にすべきことは山ほどある。まず今晩の宿の予約を
しなければならない。それからおなかが減ったのでおそめの昼飯。そして一番大事なのが明日の
交通手段の確保だ。明日はスペインのマドリードに行こうと考えている。4000km程度の、今回のプランの
中では最も長距離の旅程のひとつで、夜行列車で行ければ時間の節約になるだろう。
さて、まずなにより換金をしなければおしっこもできない。トイレには6F(100円)払って入る。あれ?
どうやらこちらは「大」専用だ。小用の便器がない。そうか、入り口が違うんだな。あ、小用は4Fって
書いてある。まあいいや塀を乗り越えちゃえ。高いほうから安いほうに移るんなら見つかっても
怒られないだろう…。という具合でわざわざ塀を乗り越えて小用のトイレに入りなおし、用を足した。
今思えばこんな事をしなくても、大用の便器で小の用を足すのは全然問題なかったはずだ。
昔から「大は小を兼ねる」って言うし。なお、反対は厳禁。

 通常、こういう気まま旅行者のために空港や大きな駅にはツーリストインフォーメーションの中か、
あるいはそのそばに、数100円程度の手数料でホテルを紹介してくれる事務所がある。が、このパリ北駅に
はどうしても見つからず、仕方がないので手元にあるガイドブックにあるホテルに電話をしてみることにした。
幸い、このガイドブックのパリのホテルの掲載数は多いのだが、フランスではあまり英語は通じない、と
いう話を聞くのでちょっと不安。

 

プルルルルルル……ガチャ

 ホテル 「ボンジュール、○■×□△…」
M 「ハロゥ、ドゥーユースピークイングリッシュ?」
 ホテル 「イェス」
M 「アイド ライ トゥ ブック シング‐ルーム トゥナイ、イズィッオーケー?」
ホテル 「ソーリー、ウィーアーフル」
M 「オーケー、サンクス、バイ」

 ふー、どうやら英語は問題なく通じるようだ。このホテルは一杯のようだが別にかけてみよう。

 

プルルルルルル……ガチャ

「ボンジュール、○■×□△…」
「ハロゥ、ドゥーユースピークイングリッシュ?」
「イェス」
「アイド ライ トゥ ブック シング‐ルーム トゥナイ、イズィッオーケー?」
「ソーリー、ウィーアーフル」
「オーケー、サンクス、バイ」

 

プルルルルルル……ガチャ

「ボンジュール、○■×□△…」
「ハロゥ、ドゥーユースピークイングリッシュ?」
「イェス」
「アイド ライ トゥ ブック シング‐ルーム トゥナイ、イズィッオーケー?」
「ソーリー、ウィーアーフル」
「オーケー、サンクス、バイ」

 

プルルルルルル……ガチャ

「ボンジュール、○■×□△…」
「ハロゥ、ドゥーユースピークイングリッシュ?」
「イェス」
「アイド ライ トゥ ブック シング‐ルーム トゥナイ、イズィッオーケー?」
「ソーリー、ウィーアーフル」
「オーケー、サンクス、バイ」

 う…。どこも一杯だ。土曜日は混み合うのか?野宿なんてやだぞ。ガイドブックに載ってる「経済的ホテル」、
ありていにいえば安宿はあとひとつしか残っていない。ちょっと中心から離れているがそこにかけてみよう。
そこがだめならしょうがない、一万円以上する高いところに泊まるか。

 

プルルルルルル……ガチャ

ホテル 「ボンジュール、○■×□△…」
M 「ハロゥ、ドゥーユースピークイングリッシュ?」


ホテル 「…あ りとる」

 

はあ?「ちょっとだけ話せます?」そんな接客あるか!
話せるか話せないかどっちかだろう!日本人か、おまえは!
まあいいやとりあえず先を急ごう。


 M 「アイド ライ トゥ ブック シング‐ルーム トゥナイ、イズィッオーケー?」


ホテル 「…あ りとる」

 

はあ?「ちょっと」も話せねーじゃねーか!スネークマンショーの真似してんのか!?
しょうがない、こういうときは単語を並べるのが一番である。

 

 M 「シングルルーム、ワンパーソン、トゥナイト、オーケー?」

ホテル 「オーケー」

おお、通じた通じた。

ホテル 「ホワッツヨーネーム?」

M 「TAKA」

ホテル 「ピー、エー、ケー、エー?」

それじゃあPAKAだろうが

 M 「ティー、エー、ケー、エー」

ホテル 「オーケー、シーユーゼン、バーイ」

 あれ、クレジットカードの番号とか聞かなくていいのかな。なんかやたら早くきりたがってた。まあ他国語の
電話になるべく応対したくない気持ちはよくわかる。

 ああ、アホなことに神経使って疲れた。昼飯にしよう。町に出ておいしいものでも食べようと思ったが
このあと明日の切符を買わなきゃいけないので駅構内のカフェで済まそう。
 構内のカフェといってもちゃんとウェイターがいて、お客さんを呼び込んでいる。サンドイッチくらい
食べられるか聞いてみよう。

M 「ハロゥ、ドゥーユースピークイングリッシュ?」

 ホテル 「…さむたいむず」

「ときどき」ってなあ、どいうことだ!おまえら、英語をなめてんのかー!

 

 

 

 

 このカフェではチーズサンドイッチとコーヒーを注文した。フランスでコーヒーって言えばカフェオレかと
思ったのに出てきたのはエスプレッソだった。エスプレッソも嫌いじゃないけどなんとなく今は量が
ほしかったのでちょっとがっかり。それにこのサンドイッチ。チーズサンドイッチって、看板に偽りは
ないんだけど、ほんとにチーズと、ちょっとのマーガリンしかない。パンはイギリスのようにブレッドではなく、
バケットでそれがまあ目新しいといえばそうなんだけど…。まあ駅構内のカフェなんてこんなものか。えさだと
おもって食べちゃおう。

 

 

 

 

 

 

 

ぱく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!!

 

 これはうまい!確かにチーズ、パン、マーガリンだけなのだが、それぞれが絶妙にウマイ。それに
なにも足さない、なにも引かない、ウィスキーのCMのような微妙なハーモニー。うーん、さすが食の王国、
フランス。駅のカフェでさえこれほどのものを出すとは。……それともイギリスに暮らしているうちに
俺の舌がまずいものに慣れてしまったのだろうか…

 元気を取り戻したところで、明日の汽車の予約をしよう。パリ‐マドリード間は直通列車は一本しかない。
スペインの運営する長距離列車AVEには、隣国の大都市、パリ、ミラノ、チューリヒなどを結ぶ特別夜行が
ある。それぞれスペインを代表する芸術家たちの名前で、「フランシス・デ・ゴヤ」、「サルバトーレ・ダリ」、
「ホアン・ミロー」などの愛称がついている。パリ‐マドリード間は中世に活躍した画家、
「フランシス・デ・ゴヤ」号が走っている。が、これらの夜行列車は超人気で2,3週間前に埋まってしまうらしい。
だめもとで一応聞いてみよう…

「ノー、イッツ フルブックト」

 やっぱだめか。となるとパリからスペインの国境沿いの都市、イルンまで夜行で行って、そこで乗り換える
ルートしかない。「フランシス・デ・ゴヤ」号は乗り換えなしの19時過ぎ発、朝9時過ぎ着と理想的な
ダイヤなのだが、こちらの経由便は23:14パリオーステルリッツ駅発7:32にイルン着、その後さらに8:15発
の特急に乗り換え、マドリード着は14:55過ぎと、16時間の長旅になる。まあでもそれしか選択肢がない
ので仕方がない。
 パリ‐マドリード間の乗車券に2等クシェット(簡易寝台)、イルンーマドリードの座席指定、シめて749F
(13000円)。思ったより安かった。

 

 

 

 

結局ホテルについたのは17:00過ぎになってしまった。一泊240Fは4000円くらい。
ヨーロッパでは安宿の部類に入るのでそれほど期待していなかったのだが、意外にも部屋は
結構広く、快適だった。シャワーは共同、朝食はつかないが、なぜかトイレだけは各部屋にある。
この時間からあまり遠くに行くのも大変なので、もよりの観光スポット、バスチーユ広場に行った。
フランス革命はバスチーユ牢獄の襲撃から始まったのはご存知のとおり。毎年7月13日
革命前夜祭には多くの人が広場を埋めるそうだ。もっとも、現在は牢獄はなく、記念碑があるだけ。

 今回の旅行の目的のひとつにおいしいものを食べよう、というものもあるのだが、
毎回毎回レストランではお金がかかるので今晩は安く済ます。選択肢はいろいろあったけど、
フランス版テイクアウトチャイニーズにしてみた。テイクアウトチャイニーズは中華料理のホカ弁の
ようなもので、イギリス、アメリカなど、およそ世界のほとんどの国にある。フランスの
テイクアウトチャイニーズはちょっと違う。カウンターがショーケースになっていてそこに餃子や
春巻きなどの単品が並び、好きなものをつめてもらうのだ。もちろんチャーハンなどもある。
そしてこれがうまい!あれほど食事のまずいイギリスでもテイクアウトチャイニーズはウマイの
だから、より舌の肥えたフランス人相手ならば更にウマイのは当然か。しかし中国人って
すごいなあ。どこの世界でも外国人としてではなく、地元民として生活ごと溶け込んで根をおろす。
そして小さな料理屋から大会社のトップまでどこにでもいる。これからはきっと中国の時代だな。
日本に帰ったら中国語勉強しよう。

 ホテルへの帰り道、コインランドリ‐を見つけた。旅はまだ始まったばかりだが、洗濯はできる
機会にしておこう。使い方わかるかな?
 中に入ってみると、案内してくれるおじいさんがいた。と思ったら「できるかな」のゴンタくんだった。

「どうやって使うの?」

「フガフガフガフガ」
「ああ、ここに洗剤を入れるのね。」

「フガフガフガフガ」
「洗剤は5Fですか。はい。」

「フガフガフガフガ」
「ふたを閉めるの?」

「フガフガフガフガ」
「スイッチはそこね」

「フガフガフガフガ」
「おお、動いた。メルシーボクー」

ううん。フランス語完璧だな。ベンと特訓しといてよかった。