23:14。列車は定刻通り、静かに動き出した。日本の発車のベルになれていると、なんの 前触れもなく動き出すヨーロッパの汽車はちょっと不気味だ。生まれて初めての寝台列車だが、 2等クシェットは必ずしも快適ではない。ヨーロッパの夜行は一般的に寝台車、クシェット(簡易寝台)、 リクライニングシート(通常の座席)があって、それぞれに1等、2等がある。寝台車はベッドの他に 流しや簡単な椅子もつき、ちょっとしたホテルのような感じ。クシェットは日本のブルートレインのB寝台に あたる。1コンパートメント6人だが、幸い周りはおとなしそうな人たちばかり。それに隣のベッドの女性は 英語が話せるようだ。車内放送はフランス語とスペイン語なので心強い。
 2等クシェットでは普通に座ることもできない。 ただ寝るのみ。
初めての寝台列車を堪能するまもなく、発車してすぐに消灯時間となる。23:14発なので当然といえば 当然か。ここでくーと寝てしまえば明日の朝、スペイン/フランスの国境駅、イルンに7:30ごろつくはず。
しかし…
全然寝れない。狭さとか振動とかうるさいとかの問題ではない。体調が悪いのだ。胸焼けがまだ 残っているし、頭痛もしてきた。手のひらが熱いのは熱があるからだろうか。あのまずい料理を無理やり おなかに詰め込んできたせいだ。
まずいな…。本格的に風邪を引いたかもしれん。疲れているのに全然寝れない。一日中歩きつめたあと、 夜行を利用する、というのは無理があったか。マドリードに着いたら今後の予定をちょっと見なおさなきゃ 行けない。ほとんどの日程を移動、観光でびっしりのつもりで来たから。飛行機を混ぜる必要もあるかも 知れない。それどころか、この風邪がひどくなったら旅行どころではない。マドリードから引き返さなきゃ 行けないかも…。始まったばかりでの中止はあまりに残念だが、撤退もまた勇気なり。
IRUN
‐スペイン‐ 通貨/1pts(ペセタ)=0.67円 公用語/スペイン語
車内放送も何にもないまま、IRUNについた。先の駅で同じコンパートメントの人はみんな降りてしまったので 周りの状況がわからず、車掌も見まわりに来ないので、危うく取り残されるところだ。 結局ちょっとうとうとしただけで、まともに寝ることはできなかった。ここで45分ほどの待ち合わせのあと、 特急に乗り換えて更に8時間の旅だ。うへえ。

IRUNはスペインの国境沿いの街だ。それなりに発展しているようだが観光するようなところはなさそうだし、 時間が中途半端。なによりそんなパワー、全然ない。スペインは暖かいのだろうが、明け方はまだまだ寒い。 国境駅らしく、両替所やカフェがあるが、カフェは混んでいていて順番待ちが大変そうだったので売店で ジュースを買うだけにした。
「フランスフランは使えますか?」
「×○△▼○○□×」
「じゃあこれでお願いします」
「▼×○×□○□■▼?」
「ああ、おつりはペセタでお願いします」
うむ。スペイン語も完璧
司会者 「IRUNは観光をしていないので得点評価の対象外ですが、ちょっとお話だけでも 聞いてみましょう。大山のぶ代さん?」
大山のぶ代 「こんにちは ぼくどら…司会者「ありがとうございましたあー!」

未明、IRUNのCAFEで放映されていたドラえもんは夢か幻か
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 IRUN-Madridを結ぶIC
8:15IRUN発のIC(インターシティー)、席は間違いなくあるだろうが、念のため予約しておいた。席の 番号は上の荷物おきのふちに書いてある。が、58番って窓際だろうか、廊下側だろうか。VとかPとかって 書いてあるけど…。おろおろしていると、通路反対側の老夫婦が教えてくれた。
「▼×○×□○□■▼パシーリオ」
「×○■○▼△ベンターナ」
ほう、廊下はパシーリオ、窓はベンターナって言うのか。58番はPって書いてあるから通路側だな。
「コマンタレブー」
あ、しまった、これはフランス語で意味も違うわ。まあいいや。どうせなんのことだかわからないだろう。
しかしとにかく体がしんどい。IRUNからMADRIDはまさに荒野を行く、という感じで、岩山を抜けたり 地平線が見えそうな大地を抜けていく、壮大な眺めだったのだが今一つ堪能できない。 スペインのICは飛行機のように車内で映画を放映している。これでも見ながら時間をつぶしてマドリードまで 耐えよう。イヤホンをして座席横にあるジャックに差し込む。げぇ…。これ吹き替えだ。スペイン語で話されても 全くわからん。まあ、チャーリーズエンジェルなら言ってることがわからなくても大体の筋はわかるだろう。 昼飯どき、食堂車で買ったサンドイッチは生ハム+チーズでこれがめちゃめちゃうまいのだが、 調子の悪い身体にはちょっと重く、食べきるのも大変。
MADRID
‐スペイン‐ 通貨/1pts(ペセタ)=0.67円 公用語/スペイン語
14:55、ようやくマドリード・チャルトマン駅に到着。いやあ、長い旅だった。汽車を降りて、かなり暑いことに気づいた。とにかく太陽がさんさんと照りつける。影の濃さがパリとは全然ちがう。それに周りのセニョールやセニョリータ、みんな濃ゆい。めちゃめちゃホリが深いのでこの強い太陽のもと、目もとが影になり、みんなケンシロウになっている。お兄さんもお姉さんもおじいちゃんもおばあちゃんもみんなケンシロウなのだ。 マドリード・チャルトマン駅は鉄道用、旅行者用、地下鉄用とインフォーメションセンターが分散していてちょっとわかりにくかったが、アコモデーションサービスを見つけ、ホテルの予約をする。体調が悪いので、ちょっと高めでもいいから部屋にバストイレ付きの、綺麗なホテルにしたい。「13000pst(8500円)はいかがですか?」ううん。ちょっと高いなあ。でも他を探してもらうのも待ってるのもしんどくて、そこに決めてしまった。「紹介手数料は400パーセントになります」。はあ?ここはぼったくりか?ああ、「400ペセタ」ね。300円くらいか。ああびっくりした。 このマドリード・チャルトマン駅はマドリードの町の北のハズレなので、ホテルのある中心街へは地下鉄で行く。意外だったのはマドリードの地下鉄はとてもきれいで明るい。ホームには大きなプラズマディスプレイがあり、次の電車の到着時間や目的地とあわせて、ニュースや広告などを放映している。もちろん壁に落書きなどひとつもない。今まで経験した地下鉄の中では、日本を除けば一番きれいである。 SOL駅で降りた。ほぼ町の中心である。マドリードの町はパリやロンドンと違い、ネオンや看板がきらめき、煩雑と活気が入り混じっている。ホテルはさすがに8500円も出しただけあり、天井が高くて落ち着いている。物価の安いスペインでは高級とは行かないでも中の上ぐらいであろう。今回の旅行で唯一、ポーターが部屋まで荷物を運んでくれたホテルでもある。 部屋に着いてまず寝た。いやあ、ほんと疲れた。クーラーがちょっとうるさいのだが、そんなことは気にならず、すぐに眠りに落ちた。お疲れ様。 19:00ごろ目がさめた。頭痛は引いていない。のども痛い。おなかは減っているのだが、食欲はあまりない。近くのコンビニでりんごジュースとヨーグルトを買って食べた。他にあっさりしたものって何もない。ああ、ダシのきいたうどんが食べたいなあ。このホテルには2泊する予定。とにかく無理をせず、体調の回復に努めよう。明日起きたときの体調をみて、更に宿泊を伸ばすなど今後の予定を考えよう。 |
 マドリードの地下鉄はとても綺麗
 宿泊したホテル、CARLOS Vは三ツ星ホテル
 マドリードは煩雑と活気が入り混じった街
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